「私はダニエル・ブレイク」を観て、福祉と効率について考えた

「私はダニエル・ブレイク」を観た。昨年のカンヌ映画祭でパルムドールを受賞した作品。 監督であるケン・ローチは、社会の流れに翻弄される弱者の側に立った作品を描くが、「私はダニエル・ブレイク」にも「どんな人間も名前を持つ一人の人間だ」という強いメッセージを感じた。 本作は、医者からは就労を禁止されている心臓病持ちの老人が、(イギリス版の)ハローワークで、「就労可能」と認定されてしまうことから物語は始まる。 「就労可能」と認定されたからには、「求職活動」を行わなければ失業給付金がもらえない。だから、老人は街の工場を歩き回って履歴書を配り歩く。 けれども、医者からは就労を止められているから、実際は働く...

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読書メモ:「ルポ 児童相談所」

著者の慎泰俊さんから献本頂いたため、遅ればせながら読書メモを書いた。 ルポ 児童相談所: 一時保護所から考える子ども支援 (ちくま新書1233) ******  恥ずかしながら「一時保護所」についてあまり知らなかったので、とても勉強になった。一時保護所とは、「実家庭で暮らすことが最善ではない」と児童相談所に判断された子どもたちが、平均1ヶ月滞在する場所のこと。(その後、実家庭に戻れない場合、社会的養護や特別養子縁組を受けて、実親を離れ生活することになる。)  本書は、一時保護所の厳しい規律や、そこに滞在する子どもたちの精神的な不安定さについて、ルポ形式で描かれている。また、一時保護所にも「良い...

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「風立ちぬ」を見て

ここ数年、映画や本を読んでも言語化してアウトプットをする時間が取れなかったので、徐々にこのブログとかブクログに感想を残しておこうと思う。 思い立ったが吉日ということで、昨日観た「風立ちぬ」の感想を書く。 ****** 観客に多様な解釈を与える芸術作品こそが、「優れた」作品だと僕は勝手に思っている。 例えば映画で戦争を描くときには、「分かり易い反戦メッセージ」が出てきた瞬間に、げんなりしてしまう。 だから、最も好きな映画であるクストリッツァの「アンダーグラウンド」然り、困難な時代や社会の中であっても、人間らしく生きる人たちの姿を描いた映画が僕は好きだ。 人も世界も多様であり、それを多様なまま描け...

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セルビア語とベンガル語

映画を見まくっている。 僕は前回も書いたように、エミール・クストリッツァの作品が一番好きななのだが、今日も「黒猫・白猫」という作品を見ていた。 これもヴェネチア映画祭で銀獅子賞を取っているらしい。 (ちなみにこの作品に出ているセルビアの女優"Branka Katić"が、めっちゃ好み)   気づいたことが1つ。 意外にも、セルビア語とベンガル語が似ているのである。   例えば、数字。 1,2,3はエク・ドゥイ・ティンとベンガル語では発音するのだが、セルビア語でも同じだった・・・ あと、「人間」とか「奴」とかいう意味で使われる「マヌシュ」、これもセルビア語で同じように聞こえた...

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映画生活

連休中は映画ばかり見ていた。   流行ったから、という理由で敬遠していた「バベル」を今更DVDで見た。 心が通じ合えない一つ一つのストーリーが最後で繋がる、良い映画だった。   色々な人に勧められながらも見ていなかった「City of God」を見た。 ただ、スラムの悲惨さを描くだけでなく、そこに横たわる喜び、悲しみといった日常がちゃんと描かれていた。 社会や世界の複雑性と不条理もちゃんと描かれており、特にラストは圧巻だった。エンターテイメントとしても良かった。   そして久々にキム・キドクの「サマリア」を見た。 援助交際の中で自分の居場所を探す少女たちと、それを知ってしまった父親の苦しみ、そ...

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写真

7月は色々と整理をしていて、その1つが写真。 2年位前から撮りためているのだけれども、撮りっぱなしでした。 facebookにアップしたものは外部からも見れるようなので、こちらからリンクしておきます。 細々と、でも真剣に写真は続けていきたいと思っている。   バングラデシュ(インド・ネパール含む) http://www.facebook.com/album.php?aid=50585&l=48351&id=703689119 中東 http://www.facebook.com/album.php?aid=49797&l=36645&id=703689119 東...

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ドキュメンタリーについて

ドキュメンタリーに関して、最近考えていたことをいくつか。 ******   先日某マスコミの面接を受けた。 いつのまにか、後一回で内定である。 外資コンサルへの返事は延ばすに延ばして今日金曜日にしてもらったけれども、それでもまだ決めかねている自分の優柔不断さが情けない。 今の僕には人生をかけてもいいほどの「やりたいこと」がなくて、だから全てを複雑に考えすぎてしまうのかもしれない。   ぬるい日々が続き、明日が見えない。そんな時間が二年も続いている。 強度だけで生きるのは、なかなかつらい。  ******   「複雑な世界を複雑なまま表現したい」 「何回か会っただけで相手のことが分かったかのよう...

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ドキュメンタリーについて

演劇を見た。 空間を、演技や音や踊りで、目いっぱいに表現していた。 こういうことが、やりたかった。     ドキュメンタリーを創ろうと思ったのは、別に「世界の貧困や紛争を伝えたい」とかそんな崇高な動機ではなかった。 国際関係論を学ぼうと思い大学に入ったものの、結局は文学や哲学、人類学など、「思想」を扱うものに興味がうつった。   人は何のためにこの社会で生きていて、何を求めていて、何を感じているのか。 社会とは何か、他者とは何か、自分とは何か。 うまく言葉にできない気持ちを表現しようと思ったら、いつのまにかドキュメンタリーにいきついた。 僕が思考を始めたのが、身近な他者を含む「世界」との関わり...

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故郷、家族、アイデンティティー 「サイードから学ぶべきもの」

イブの夜は、エドワード・サイードの人生を追った映画「OUT OF PLACE」を見に、東中野にいた。 高校を卒業して進路に迷っていたころ、サイードの著作を読み、おこがましいのを承知で彼の人生を自分に重ね合わせていた。 パレスチナ問題に興味を持ったのも、文学批評家であり、思想家としてのサイードに触れたのがきっかけだった。   映画自体は少々冗長ではあったが、それでも見てよかったと思う。 とても苦しくなったのと同時に、温かい気持ちにもなれた。     サイードの知人であるプリンストン大学のマイケル・ウッドは、映画の中でサイードをこう評していた。 「エドワード・サイードは「故郷」についてときどき物欲...

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