バングラデシュで考えていたこと 2

ドキュメンタリーの主人公としている女性は、僕が出会ってから二年の間に二人の子どもを生んだ。 当初は、「早くこの娼婦街を出たい」と嘆いていた女性も、今回は「子どもを海外で勉強させたいから、できる限りこの娼婦街でお金を稼ぎたい」と僕に語った。   イスラエル・パレスチナにしても、アジアの娼婦にしても、人は「悲しい物語」に反応しがちだ。 けれども、そう簡単に「物語」は転がってはいない。   貧しい家庭に生まれお金を稼ぐために仕事を探す中で、ブローカーに騙され娼婦街にやってきた女性であっても、その絶望の中でもがきながら次第に環境に順応していく。絶望だけでは、生きてはいけない。   僕はそれも、人間の強...

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バングラデシュで考えていたこと 1

バングラデシュにいたときは、毎日忙しすぎてブログを全然更新できなかったので、時間のあるうちにあの時考えていたことを書いておこうと思う。     5月に秋葉原の事件が起きたとき、東浩紀や宮台真司が主張していたことが僕にはずっとひっかかっていた。 議論を要約すれば、「格差があることは問題ではない。格差が格差として固定されていれば、社会は健全に廻る」といった内容だった。   ヨーロッパのように格差が固定化されていれば問題はない。けれども、日本は「みんながホリエモンになれる」と思い込める社会だから問題なのである。そのような社会においては、「勝ち組」「負け組み」といった意識レベルの差が確実に生まれてくる...

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バングラデシュで考えていること 5

いままで、泣き言みたいなことはあまり書いてこなかったけれども、バングラデシュという国に滞在して、どうしてこの国が発展しないのか、分かった気がする。   たとえば去年も、ドキュメンタリーの翻訳を頼んでいたはずの人間が失踪し、その後別の者に翻訳を頼んだものの誤訳だらけだった、とい事件があった。 (その誤訳を、卒論として提出してしまったのである) この国で信頼できる人を探すことがいかに難しいか、NGOや企業の人々の苦労を少しずつ理解した。   ****** 去年ある友人に約45000円でビデオカメラを売ったのだが、20000円の支払いがまだだった。 今回の滞在で受け取る予定だったのだが、バングラデシ...

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バングラデシュで考えていること 4

学生時代の前半NGO活動をしていたころ、「世界のことを考える前に、日本の問題に目を向けるべきだ」とのお叱りをうけたことが、幾度となくあった。   日本と、日本以外の世界を短絡的に分ける考え方はあまり好きではない。どこからどこまでが自分の所属する社会で、どこからどこまで「外側」の世界なのか、境界は曖昧だからだ。 現に僕は、行ったことのない富山県よりも、地図なしでも動けるダッカの街の方が、身近に感じる。   けれども一方で、僕には東京ほど住み心地のよい街がない気がしている。 どこにいってもキレイで、世界各国のレストランがそろっていて、インターネットの速度が速くて、女の子が薄着で(バングラデシュの女...

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バングラデシュで考えていること 3

先日、NHKスペシャルでバングラデシュのマイクロファイナンスが特集されていた。 マイクロファイナンス、繊維産業といったものを絶賛する内容だった。 自分が行くかもしれない会社なので一応見てみたが、やっぱりテレビドキュメンタリーは作りたくないなぁと思ってしまった。 一ヶ月程度取材して、対象のことを分かった気にはなりたくない。   ちなみに、マイクロファイナンスで返済できずに刑務所に入ったり、自殺したりする人は少なくはない。 繊維産業なんて、休みもなくて低賃金という、先進国に搾取される最悪の仕事でもある。休みが月に二回、朝から晩まで働いて月4000円程度の賃金。だから、フェアトレードが叫ばれるように...

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バングラデシュで考えていること 2

バングラデシュの友人たちは、都市の生活よりも電気のない村の生活を美しいと、よく話す。 もし開発(他動詞的な意味でのDEVELOP)が、バングラデシュのような途上国を、日本のような先進国にすることを意味するならば、そこにはたいした意義がないように思う。 確かに、日本人は経済的に豊かだ。しかしそれは、人間の幸せとは相関しない。   日本では、フリーターや派遣労働者でさえ、月に10万円以上稼ぐことができる。 多くの場合20万円近い。最低限の衣食住は確保される。 それなのに、なぜ秋葉原の事件をはじめとする日本の「貧困」問題は起こっているのか。   それは、人は「尊厳」によって生きているからだと 僕は考...

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バングラデシュで考えていること 1

戸籍上の母親は亡くなったが、それでも僕はバングラデシュに来た。日本を出てから初めて、自分の行為が正しかったのかどうか、悩んだ。 一昨日まで入院していた。計6回半年強バングラデシュに滞在して、そのうち3回入院している。僕は途上国が向いていない。いや、バングラデシュが他の途上国と比較しても異常な気もする。ハエも蚊も物乞いの数も、世界一なんじゃないか。 地を這うようにしながら、世界を見上げてみたかった。物乞いやリキシャ引きたちの言語を覚えて、そこからどんな世界が見えてくるのか、感じてみたかった。「電気を通して途上国に貢献したい」、「投資環境を整えることで途上国に貢献したい」、そういう人たちと話すにつ...

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強くあるもの

帰国した。 取材対象である娼婦街には、結局4日間の滞在となった。   ドキュメンタリーの主人公であるショキには子どもが生まれていた。 彼女は17歳の時、ブローカーに売られて娼婦街にやってきた。「首都ダッカにいい仕事があるから」という言葉を信じて、ブローカーに連れられてきた場所が娼婦街だった。 処女性を重んじるバングラデシュにおいて、一度娼婦になった者は、社会に戻る場所がない。また保守的なバングラデシュにおいて学歴のない女性が、過去を隠して誰も知らない場所に行くことは不可能である。まして父親のいない子どもが生まれた今、社会が彼女を受け入れる余地はない。 イスラム教の指導者たちは言う。「彼女たちは...

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近況

日本語が打てるネットカフェにきた。 通訳を派遣してもらったり、映像に関してアドバイスをしてもらっている現地のNGOの方と連日ミーティングをし、ドキュメンタリーの方向性を決めている。 だから、今もまだ首都ダッカにおり、ドキュメンタリーの現場であるタンガイル県には向かえていない。   端的に言えば、準備不足である。 今まで4回も撮影をしてきたので、離日前に今回の計画をもっと立てられたはずだった。 ドキュメンタリー製作も半ばを超えたため、シナリオ作りが重要になってくるのだが、それを日本で十分にしてこなかったのである。   そんなわけで、外国人居住区のカフェにこもる日々が続いている。 あと一週間で帰国...

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