生活保護世帯の教育支援について

珍しく時事ネタでも。

僕の専門は福祉と教育の中間領域なので、貧困家庭の教育支援には関心を持って政策的な流れを見ている。

以下、毎日新聞より転載。
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学習支援:貧困断絶へ、生活保護世帯対象に教室開校へ−−東京・府中市
2013年09月19日

生活保護を受給する家庭の子どもが成人後も貧しさから抜け出せない「貧困の連鎖」を断ち切ろうと、東京都府中市が、生活保護世帯の子どもを対象とした無料の学習支援教室「みらサポ」の開校準備を進めている。関連経費886万円を含む補正予算案が18日、9月定例市議会の予算特別委員会で承認され、事業の10月スタートが固まった。【斎川瞳】

「みらサポ」は文化センターなどを利用し、市内4カ所で週2回、放課後に開校。各教室には学習塾などで活動実績がある講師2人が配置され、テスト勉強のサポートや学習指導、進路相談などに対応する。
市によると、市内の生活保護世帯の中学生は今年4月1日現在で154人。今春の全日制高校進学率は市全体の89%に対し、生活保護世帯の子どもは55%にとどまっている。
市は生活保護世帯の学習支援策として、2009年度から通塾費を助成(上限は中学1、2年が年間10万円、3年が同15万円)してきたが、経済的困窮や学習意欲が低いなどの理由から手を挙げる世帯は少なかった。

生活保護家庭で育った子どもは学習環境に恵まれず、成人後に自身も生活保護を受給するケースが多いとされるため、市は「もう少し深い支援を」と「みらサポ」の開校を計画した。
市生活援護課は「より多くの子どもたちに学習の機会を提供し、子どもたちが自分の力でしっかり働き、歩いていける未来をサポートしていきたい」とコメント。各家庭を訪問し、積極的な参加を呼びかけている。
国は8月から生活保護費のうち日常生活費に相当する「生活扶助」の切り下げを開始。3年間で最大10%削減する方針で、学校に通う子どものいる生活保護世帯に与える影響は大きい。このため新宿区や板橋区などは既に生活保護世帯向けの学習支援を始めており、八王子市も教職員OBなどによる本格的な指導を行っている。

府中市の取り組みもそうした流れの一つだが、都内には学習支援に消極的な自治体もあり、支援を巡る地域間格差の解消が急務になっている。
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上記について、基本的には素晴らしい事業だと思うのだが、課題もあるように思ったので備忘録的にかいておく。

・「手をあげる世帯が少なかった」原因が何なのかをちゃんと分析したのか、という課題。元々提供していた年10万の通塾助成費ということは、単純計算で月8000円ということ。これじゃ、週一回の授業受講も難しい(集団授業で、安い塾なら、あり得るかもしれないが・・・)。
さらに、勉強が遅れている生徒は少人数指導でないと厳しい。「意欲」の課題を抱えている生徒であれば尚更少人数での指導が必要だから、必要な授業料は上がってしまう。

授業料が税金から出ることに反発もあるかもしれないが、教育系の投資は「未来への投資」になりうる。中卒で働ける仕事は少ないが、高卒になれば仕事の選択肢は増える。何より基礎学力の欠如は職業選択を大幅を狭める。

貧困の連鎖を防ぐことは、未来のtax eaterをtax payerに変える(つまり将来の生活保護受給者を、将来の税の担い手に変える)ことにも繋がるので、政府から見れば、他の多くの福祉事業と異なり「投資」といえる。
だから本来であれば、税金の支出を正当化しやすいはずである。

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・もう一点、学校外教育バウチャーの可能性について。「生活保護世帯」専門の学習スペースが必要か否か?という点
*ちなみに、学校外教育バウチャーの説明はCFCさんの説明が詳しい。 http://www.cfc.or.jp/

「学校外教育バウチャー」が効果的なのは、「既存の教育産業」を利用できるという点である。ボランティアではなくプロの指導を、貧困家庭の子どもたちにも提供できる点は、機会の平等の観点からすると非常に良い。(今回の府中市の事業は、塾講師経験者が行うということなのでOK)

勿論、既存の教育産業だとソーシャルワーク的な支援はできないが、貧困家庭の子どもたちの中にはそのような支援が必要のない意欲の高い子もいる。そういう子たちは、市場原理の中で指導が洗練されている既存の塾・予備校(教育・指導のプロ)に行ったほうがベターだ。
(もちろん、市場原理が全て正しいなんて、全く思っていないけれども)

つまり、「貧困世帯専門のサービス」しか選べないのではなく、「受益者負担でも成り立つサービス」も含めて選べる社会を作るべきだ。貧困家庭も既存のサービスが使えるようになってこそ、機会の平等が達成される。お金のあるなしでサービスが限定されるなんて、悲しい。

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ちなみに、僕が持っている塾は受益者負担だけれども、それは中退・ひきこもりといった状況は貧困家庭以外にも起こりうるからだ。
そして、現在まで効果を上げている(=保護者がお金を払いたいサービスになっている)からこそ、近い将来貧困家庭の方々にも届けたいといつも思っている。

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