書評 『ラオス 豊かさと「貧しさ」のあいだ』

「外から人が入ってくるようになって、自分たちは貧しいことを初めて知った」
飛行機の中で読み返していた、『ラオス 豊かさと「貧しさ」のあいだ』の一節だ。昨年に引き続き、今年も年末はラオスで休暇を過ごしている。

こうして「発展途上国」にいるたびに、20代前半の頃を思い出す。
「貧しい」人々を助けたいと願い「発展途上国」に関わるようになったけれども、次第に彼らの豊かさに気づくようになった。そしてそれが、僕が途上国ではなく日本国内で事業をするようになったきっかけだった。
もちろん「開発」「国際協力」という仕事が不必要だと思っているわけではないが、僕自身は今も彼らとの関わり方が分からないでいる。

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『ラオス 豊かさと「貧しさ」のあいだ』は、当時JVC(老舗の国際協力NGO)でラオスに駐在していた女性の、3年8ヶ月の記録だ。

「貧困層が竹の子やキノコなど林産物を持ってコメと交換しに来た場合は断っていけない」という分かち合いの精神。
急な岩山を登った先にある竹の子をわざわざ採取しに行っても、「また来ればいいから」と全てを取りきらない、「足るを知る」姿勢。
そんな古き良きアジアの農村が抱えている課題に対して、NGO職員としてどのようにアプローチしたかが前半で描かれている。

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中盤は、「開発の意義」「支援者の責任」等、より普遍的なテーマについての議論へ。
著者によれば、開発とは、「変化を起こすこと」、そしてマイナスの変化をできる限り抑え、プラスの変化を起こす過程をサポートすることだ。

では、「変化」が必要な「問題」とは何か。それは、「解決できる可能性がある」と感じられるものだ。あらゆる「困難」の中で、「解決できる可能性がある」ものだけが、「問題」となる。逆に言えば、解決できない困難は、「問題」にはならない。
例えば、朝5時に太陽が昇ること、それによって眠い中で起こされてしまうことは、「困難」ではあるが、解決できない以上「問題」ではない。

つまり、外部者たるNGOが果たす役割とは、村人たちが「解決できる可能性がある」と感じているものの、村人だけの力では解決できない、そんな問題にアプローチすることだ。

僕が思うに、「何がイシューなのか」を定めることの重要性はビジネスでも同じだ。
また、「マイナスの変化」を抑え「プラスの変化」を起こす、という視点は、当たり前のようでいて意外と見過ごされていることが多いと僕は思う。開発事業、特にグローバル企業が行うそれは、往々にして「マイナスの変化」を見ず「プラスの変化」ばかりを強調することが多い。

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そして後半は、「開発が貧困をもたらす」というパラドックスについて。
ダム建設による水質の変化で魚がとれなくなった村、日本の製紙会社に奪われそうになる林・・・
「貧困削減」という名目で行われてきた開発事業が、実は彼らの「貧困」を作り出しているという状況を描く。

いくつか印象に残った箇所を。
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「外から人が入ってくるようになって、自分たちは貧しいことを初めて知った。」
この言葉を聞いたとき、村人も行政職員も私たちNGOスタッフも頻繁につかう貧困という概念が何を意味しているのか、わからなくなった。ラオスを離れた現在も、この言葉を私は何度か問い直している。
ラオスに駐在していた三年八ヶ月、私が考え続けていたテーマは、「貧困とは何か」「何が開発なのか」に尽きる。村人は物質的に豊かな暮らしをしているとは決して言えないが、飢餓も戦争もなく、自然資源に恵まれている。言い換えれば、物質的な豊かさ以外はすべて満たされているのではないか。そうした地域において、貧困とは何で、開発とはどんな意味をもつのだろうか。 (P.145)
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「外から人が入ってくるようになって、自分たちは貧しいことを初めて知った。」
この言葉には二重の意味があるように思う。ひとつは、外国人が「お前たちは貧しいから助けてやる」と言って、様々なプロジェクトを押し付けるという意味である。もうひとつは、開発プロジェクトそのものが森や川などの自然の資源や村人の知恵と助け合いの仕組みという数々のセーフティネットを壊し、その結果として現金のみに依存しなければならない生活を強いられるという意味である。お金で比べたら、ラオス人はまったく「貧しい」のだ。(p.179)
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「何が問題なのか」「貧困とは何か」「開発とは何か」、そういった根源的な問いは、国外であれ、国内であれ、社会事業を行っていく上で、忘れてはならない問いだと思う。
僕自身、改めて自分の事業の意義について、考えさせられた。

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