外部者の視点、マイクロファイナンスを巡る言説

今日二度目の更新。
 
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一昨年の秋バングラデシュを訪ねた時、農村のグラミンバンクを訪ねた。
 
グラミンバンクといえば、マイクロファイナンスの先駆けであり、開発を勉強する者たちの「憧れ」である。
マイクロファイナンスとは、無担保で小規模な資金を貧しい人に貸し付け、少しずつ返済してもらうシステムのことであり、これにより途上国の多くの人が貧困から脱出したと、言われている。
そしてビジネスという仕組みを通じたことで、寄付に頼るNGOと比べて、「持続可能」だとも言われている。
 また、特徴として「女性に貸す」ことがあげられる。女性の方が、punctualだからだそうだ。この結果として、女性の地位の向上に寄与したと「言われて」いる。

一昨年の秋、僕は農村のグラミンバンクの集会を訪ねたのだが、その時からこのマイクロファイナンスという仕組みを疑うようになっていた。

借りたお金を何に使っているのかと村の女性一人一人に話を聞いてみると、「夫のCNG(小さいタクシー)を買うお金になった。」「夫の雑貨屋を始めるお金になった。」という話が7割以上を占め、女性自身で何かを始めたという話は少数だった。
 
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今回のバングラデシュ滞在で、前回紹介したNGOエクマットラでの夕食に招かれたとき、マイクロファイナンスに関して熱い議論になった。
それまで僕自身の経験では、元々現地の教育を受けた人々からは、マイクロファイナンス、グラミンバンクに関して好意的な意見を聞いたことがあまりなかった。
 

そういった中で、現状をよく分かっている人から長く話しを伺えたのは貴重だった。

いつかまとめてみる。
 
・「責任感の強い」女性がお金を借りても、多くの場合使うのは男性→お金を返せなくなった男性が、今度は別の女性と結婚し、借金を返済する例も。そのようにして、5人、6人と結婚する男性も出てきた。
 
・実は機能していない五人組制度→高い返済率の裏には、崩壊していく地域社会もある。借金を返せなくなった女性たちはどうしているのか、それを考えるなくてはいけない。
 
・みんなが「起業家」になりたいわけではない→マイクロファイナンスは、company employeeを作るシステムではなく、entrepreneurを作るシステムだから。
 
・マイクロファイナスに頼るNGO→寄付に代わる財源としてのマイクロファイナンス依存。その結果、借りる必要のない人にも、貸すようになる→返済できない農民

・地域社会に「急激な」貨幣経済をもたらした

 
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何が言いたいのかといえば、外部者に見えているものは、わずかだということである。
よくバックパッカーなどにいるが、一ヶ月程度滞在しただけで、ある国のことを分かったように語る人がいる。
世界はそれほど単純にはできていない。
 
同じ街に住んでいるホームレスの方々の生活さえ分かっている人は少ないのだから、まして言語が違う人々のことをどうやって簡単に理解することができるのか。
ある別の国や地域の事象を語ろうとするとき、その場所に滞在し言語を覚えなければ、何も見えてこないのではないかと僕は思う。
 
もちろん、外部者は沈黙せざるをえないのかと言えば、それは違う。
けれども自分の思考を疑うことなしに、他者に対して「こうあるべきだ」とする姿勢は、まじめではない。
人を分かるということは、とても難しいことだから。

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