娼婦の多くは、「経済的」な貧困を理由に娼婦街にやってきた。売られたり騙されたりして娼婦街にやってきた女性たちも、その根本に農村部の貧困があることには変わりない。
娼婦街で働き始めると、多くの娼婦たちは金銭的に裕福になる一方で、社会から「逸脱者」としてのスティグマを与えられる。それらスティグマによって、彼女たちは物理的に社会から排除されただけではなく、自己信頼をも奪われた。そして恋人からの裏切りなどによって、現在の娼婦としての自分がどのように社会から思われているのか再帰的に理解し、スティグマが構造化されていくのだ。
そのようにして多くの娼婦たちは娼婦街の外に出る勇気も失い、娼婦として生きていくことを「選択」する者もいれば、恋人(だと信じる)男性にすがり続ける者もいる。そのようにして、自らの危ういバランスを保っている。
一方で、娼婦街から出る選択をした女性たちには、どのような変化が存在したのか。それは恋人であり、子どもであり、そして何より彼ら彼女らの存在によって変わり行く自らの姿であった。主体と構造がせめぎあい、そこに揺動的平衡がうまれる。
娼婦たちは「経済的貧困」「スティグマ」など社会の構造の中でもがきながら、それぞれの意志で選択を行っている。しかし、人間はそれぞれの選択は、主体の意志と社会の構造との非常に危ういバランスの元で行われており、だからこそ主体の選択は多様になりうるのだ。そしてそのバランスが危ういからこそ、恋人や子どもなど「ちょっとしたこと」をきっかけにして、主体は変わり選択も変わり行くのである。恋人や子どもといったきっかけは、抽象化すれば「自己信頼」(self-esteem)であり、その自己信頼を手にした娼婦の一部は、主体の意志を「娼婦を辞める」方向に変化させる。
つまり、「なぜ娼婦たちが娼婦街から抜け出さないのか」「なぜ一部の娼婦たちは抜け出すことができたのか」というリサーチクエスチョンの答えは、娼婦街に「留まる」という選択肢も娼婦街から「抜け出す」という選択肢も、非常に危ういバランスの上で選択されているということに留意する必要がある。そして、彼女たちが「娼婦街から抜け出す」という選択をする時には、「ちょっとした」出来事で得た「自己信頼」が鍵となるのではないか。
リベラルフェミニズムは、確かに「娼婦を仕事として認め、彼女らに権利を与えよ」とした点で評価できる。彼女らの労働権が認められれば、ほかの労働者と同じように公の場でみずから搾取や暴力にさらされる状況を変えるために主張し、団結し、行動することが理論上可能になるからだ。
しかし同時に筆者はリベラルフェミニズムの主張にも批判を加えたい。それは「自由意志」と「抑圧」の二分しすぎたのではないかという点である。フィールドワークの結果に基づけば、リベラルフェミニズムの主張は当事者からはかけ離れた議論であった。
娼婦たち一人ひとりの主体は危うい存在であり、ある出来事を「意志」と感じることもあれば、「抑圧」つまり構造のせいに感じてしまうこともある。そしてその主体の危うさが、「ちょっとした」出来事でスティグマを乗り越えるような主体の強さに繋がっていくのではないかと筆者は主張したい。このように、良い意味でも、悪い意味でも主体と構造の関係は不明瞭なのである。
同じく先行研究として検討したセンの議論の有用なところは、経済の枠組みで全てを捉えるところではなく、主体の選択肢を尊重しようとした点である。この議論は、経済的には裕福でありながら、娼婦になること以外の選択肢を持たないバングラデシュの娼婦たちを考える上で有効だ。そして、主体に大きな期待を寄せているところにも共感できる。
しかし一方でケーパビリティ論だけでは説明しきれない多様性が主体にはある。同様の選択肢を持っていたとしても、その選択肢を選びとる力は主体と構造のせめぎあう危ういバランスの上に成り立っており、前述したようにそれが同じ構造の中にいるはずの主体たちの変化につながっていくのである。そのような主体の意思の変遷に眼を向けていない点に議論の限界があるのではないか。
2008年6月1日
ひさしぶり。開発分科会のかんです。
論文よみたい。メールで送ってくれる?erina755あっとhotmail.comまで。
やることいっぱいあるのですぐ読めるかわからんけど。
でもフィードバックはする…つもり。
それにしても安田くんすごいね。学部のときなんてリサーチクエスチョンって言葉すら知らんかった。
指導教官はなんていう人?
2008年6月1日
卒論おつかれ!!M先生にそこまで言わせるとはすごいね◎
バングラの話また聞きたいな~
2008年6月1日
はりつめた顔をした安田さんを図書館で見かけていたので、
あいかわらずすっごい集中力だよなと思っていました。
卒論お疲れ様。
おれもぜひ読みたいです。
2008年6月1日
>かんさん
メール送ったよ~
元気?もう南米から帰ってきたんだよね?
そういや俺も最近南米に興味があって、手始めにペルー料理屋でバイトしてるよ。
東京来ることあったら、連絡してね!
近況教えて~
>長崎くん
ようやく卒論終わったので、毛利ゼミ飲みしようよ。
土日で空いてる日、メールしてくれない??
>ジュン君
先週は、図書館に朝から晩まで籠もってたからね笑
かなり切羽つまってたよ。
メールアドレス教えてくれたら、送るよ~
2011年1月10日
今、関西の大学に通っています。3回生です。開発経済学やマイクロファイナンスについて、興味があります。発展途上国について、少しでも多く知りたいと思っています。論文読ませていただけるとうれしいです。
2011年1月12日
今読むと、結構恥ずかしい論文なんですよね・・・
2011年1月12日
お忙しいときに、すいません。返信ありがとうございます。
たしかに、僕も、過去に書いた作文や論文は、恥ずかしいっておもいますね。過去より成長したということなんでしょうか。
気が向いたらでいいんで、メールで送っっていただけるとうれしいです。
yasudayusukeさんのブログは、自分もがんばりたいという気持ちにさせられ、励みになります。活動応援しています!
2014年8月28日
はじめまして。早稲田大学4年で今卒論を書いています。私も娼婦の主体と構造で卒論を書こうと思い、参考として
卒論を読ませていただきたいです。
もし可能であれば見せていただくことはできますでしょうか?
ご連絡お待ちしてます。