ソシュールを元祖とする構造主義が明らかにしたことは、「私」一人一人の思考が常に言語・文化といった「構造」に規定されており、その枠組みの中でしか「私」は生きられないということだった。
ビジネスと社会貢献を結びつける「社会起業」というパラドックスは、「資本主義」という現在の社会構造に依拠しているという点で、既存のNGO・NPOとは異なる。「私」が生きる社会の外側に理想を追い求めるのではなく、既存の枠組みの中で社会を変革していこうとする姿勢が、古いようで新しい。
僕自身、学生NGOをやっていた頃は、「オタク集団」ではなく「今どきの普通の若者」が活動の主体であることが、社会の共感を得る鍵だと考えていた。また、NGOや研究所での経験を通して、「ドネーションによって成り立つ組織」は現代日本の社会構造の中にはなく、それゆえに一般市民を取り込むような大きな力を持たないと感じていた。
本当に社会を変革したいのならば、多くの共感が必要だ。
だからこそ既存の構造に「抗う」のではなく既存の構造を「操縦」することが必要であり、多くの人が「善きこと」に自然と組み込まれる社会システムを創ることが必要なのだと、社会起業家たちの活躍を見ながら漠然と考えている。