北アイルランドに住むプロテスタントとカトリックが一堂に集められ、彼らが日常感じている思いについて語り合っていた。どれだけ相手側のテロリストによって苦しめられているか、どれだけ軍事攻撃によって苦しめられているか、互いが互いへの怒りをぶつける。私は一ヶ月前に体験したイスラエル人・パレスチナ人のディスカッションの中に舞い戻ったような感覚に陥った。
このエンカウンターグループを映像化したことには理由があった。カール・ロジャースはこの映画をBBC等で流し、この試みを北アイルランド全土に広げていこうとしたのである。しかし実際には関係者がテロリスト等からの標的となることを恐れたため、公共放送は断念された。結果として教会関係者にこの映像は提供され、使用されたのみにとどまった。しかしそれでも北アイルランドにおけるカトリックとプロテスタントの「対話」は、この試み以後継続、拡大されたのである。
私たちの団体でも今、映像に長けたメンバーがドキュメンタリーを制作中だ。イスラエル人・パレスチナ人参加者の安全の確保を考えると難題が山積しているが、参考にしたいと思った。
映画の後は、参加者から畠瀬先生への質疑応答。その後昼食を挟んで私の講演となる。
はじめにNHK「おはよう日本」出演時のDVDとNHKのラジオに出演したときのテープを流した。会議の大まかな様子を映像と音声を用いて伝えたあとは、具体的なプログラムやイスラエル人・パレスチナ人参加者の心の動きを小一時間にわたってパワーポイントを使用しながら説明した。
その後は一時間に及ぶ質疑応答。様々な意見が飛び交う。心理学の学会という性質上、今回のワークショップの参加者はほとんどが心理学者や臨床心理士であったことが特に質疑応答をおもしろくさせた。私が普段日常的に接している方々は外務省やNGO、国際政治学者などがほとんどであり、そのような方々から指摘されることのほとんどは主にマネージメントの問題だったり、政治学的なことだったりする。だから「心理学」の観点から私たちの団体について評価されること自体が勉強となった。
そして幸いなことに概ね好意的な意見が多かった。休憩中には様々な方が名刺を交換しに来てくださった。コソボの難民支援のNGOを運営されている臨床心理士の方は団体自体に非常に興味を持って下さった。また、韓国・中国の留学生と日本の学生とのエンカウンターグループを実践されている福岡の大学の教授からは、今後活動の参考にしたいとのことでNHK出演時のDVDを提供してくれないかと持ちかけられた。また某予備校の社会貢献センターの責任者の方が非常に好意的に接してくださったので、渉外先としても協力を依頼しようと思った。
学生の立場から自分達の社会の裏にあるような「紛争」「貧困」といった問題にアプローチするということ、その試みが例えあまりに未熟であったとしても理念や信念を持ち行動し続ければ多くの人々の共感を生む。そしてイスラエル人・パレスチナ人の間に生まれた「共感」が今度は日本人の心にも深い「共感」を残す。私がこの夏感じたこのプロセスが再び生まれたのを少しだけ感じた。
個人的な飛躍の機会となりそうなことも1つあった。某大学の教授からルーマニアの研究所で働かないかという誘いを受けたことだ。平和学の父、ヨハン・ガルトゥングの研究所の東ヨーロッパ本部がルーマニアにあるらしく、そこで働いてみないかとのこと。いわゆるインターンみたいな感じだろうか。
どちらにせよ来年春からは大学を休学してアフリカあたりのNGOで働いてこようかと思っていた。でもルーマニアで研究員というのも悪くないかと思った。詳しいことはまた今度書こうと思ってるけど、春から「ルーマニア在住」が濃厚になってきた。
「キャリアアップ」やら「英語力のbrush up」、「平和学の研究」やらといった目的が第一義的なものである。しかし、元外務省勤務のK氏から頂いた「ルーマニアは白人女の子が東洋人の男を相手にしてくれる唯一の国だ」とのお言葉が、私ののモチベーションを上げているということは言うまでもない。
目指せルーマニア。